2020年07月03日

★(3)『御家聞書 天』に見る、鍋島家の関ヶ原大乱と江上八院の戦い(2020.7/2)


まえがきと、本文(1):http://sagasengoku.seesaa.net/article/475972672.html

本文(2):http://sagasengoku.seesaa.net/article/476023166.html


※読めなかった字は、■としています。



『御家聞書 天』(3)


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一、水田の村四五町此方にて、後陣え軍使をして「押留るべし」と御下知有て、先陣を立堅め侯、
「此所より先に進むべからず、敵かかり来らば、ここにて戦うべし」と定め給い、後陣間を下知して備を立堅め給う。水田の村、先陣の間、大道一筋にて治縄手也、又、四五町の間は横二三筋の通り、堀あり。

直茂公見玉いて、江口・豆津・千栗の村より鍬の者七百人よび給て、「夜に入ければ、味方より一町五段計先にある横堀の土橋を堀切りて、本の土橋の有ける処より左右一町に、道筋より脇に新に土橋を二筋付」と仰られて、曰く「敵は定て夜明に押来るべし、相浦三兵衛、二人の与・鉄炮百挺を召つれ、夜の中に水田の村近くに伏して、敵見えば鉄炮討かけ、悪口を吐せ、敵を偽曳べし。敵押かからば、くりかえくりかえ、鉄砲を退き討にして引取べし。自身の高名に心懸べからず、敵を味方の備近く偽曳付て、急に左右に開て味方に加り、横矢に討べし」と仰含られて、直茂公は本陣に返り給う。其後、軍使は、くしのはを引が如し。亦、主水え仰遣しけるは「最前下知の如く備を張出す事なかれ、又、敵見へば申送るべし」と也。

主水返事せず、軍使「御返事は」と云ければ、主水忿(怒)て曰「今日の先陣大将は我也。味方を可張出も引取べきも御下知を守るまじ。敵出来りつば、人を付て見給へ、我申送べからず」と云。

軍使帰て、かくと申上ければ、直茂公の曰「軍には一定勝たるぞ、其故は、将能而君不御者勝(※)と云事有。主水知勇の将也、其上我が下知を不守ば軍に可勝端也」と、よろこび給事不常。

暫して、夜はほのぼのと明にける。直茂公の玉如く、明ぼのには敵数人、水田の村へをし来る。敵見ると等く、悪口を吐せ鉄炮を打掛ければ、案の如く和泉守、最前正札に「降参せよ」と云れ口惜き事に思い、又、足軽に悪口せられ、無二無三に切かからんとするを見て、立花三太夫「和泉に先をせられし」と、六百計の人数にて、くわう言を吐ちらし押出す。伏たる足軽の二大将、最前直茂公の御下知の如く、一与鉄炮を打ければ、一与は曳取て備を立、如此くりかえくりかえ、押打にぞ曳けるを、我も我もと進掛る。

然る処に、主水が弟・七左衛門一陣に有けるが、堀の此方にて備を立て見せければ、三太夫、引退く足軽には目も不掛、大勢に討てかからんとす。かかる処に土橋をほり切て有ければ、案に相違して迷惑す、されども後陣には是を不知、いやがうえに重て堀の中にぞ入にける。味方の兵ども、さしづめ弓鉄砲にてさんざんに射けれども、敵はゆめにも不知して縄手一筋より、えいや声を出して押掛りければ、柳川の先陣の大将・三太夫を始として、残少く堀の中にぞ落入ける。

是を見て七左衛門、新土橋を渡て和泉守と戦う。和泉武功の者なれば、七左衛門備をつき崩し、七左衛門もあやうく見えて、纔七八人に成けれども、猶本の陣を不退戦ける。七左衛門が郎従に田代幸右衛門と云者、立帰て主水に云けるは「味方悉く敗軍す、七左衛門殿御傍に残り留る者、纔七八人に不過也、今一度敵掛り来り侍らば、七左衛門殿討死と覚え侍る、後を詰給へ」と云ければ、

主水が曰く「今日の軍に味方多く敗す、是七左衛門が軍立拙きに有り。命生て何の面目有てか我に面を向べし、急ぎ討死せよと云うべし。又、汝、是迠返し来るは、主に忠有様なれども、臆病にて■来るらん」と云ければ、幸右衛門太に腹を立て、「御舎弟の眼前に討死あるを眼に見え不給、闇として御座すによりて告に来る処也。何ぞ臆にて侍るべし、今討死して御目にかくべし」と、本の陣へ的りける。七左衛門が自身討取敵七人、千騎が一騎に成迠、田代猪ノ助、同幸右衛門、二人者は主の傍を不離と也。




(※)「将能而君不御者勝」(将能にして、君御せざる者は勝つ)

→『孫子』「謀攻篇」から引用されている言葉。意味は「将が有能で、しかも君主がその将軍の指揮権に介入しようとしなければ勝つ。」
(『孫子・三十六計』湯浅邦弘 著、角川ソフィア文庫を参照)





(4)へ続く(→ http://sagasengoku.seesaa.net/article/476066574.html




佐賀戦国研究会 深川 記







posted by 主宰 at 01:15| 佐賀 ☔| Comment(0) | ■関ヶ原の戦い 〜龍造寺鍋島軍の動き〜 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする